
名古屋の繁華街の一つ、今池エリア。昨年、所用で訪れた際、駅すぐの幹線道路沿いに、何やらレトロかわいいパン屋さんを見つけました。その名は『中屋パン』。その佇まい、ガラス越しに見るパンのラインナップから、相当な歴史があることを感じました。

東京在住、昭和生まれの筆者は、こんな昔ながらのパン店が好きで、各地を訪れて良い店を見つけては必ず立ち寄り買うようにしています。
今日の町中華ブームや『孤独のグルメ』が根強く支持される理由もそうだと思いますが、多くの人の中にある「そこにしかない味」を求める思いが、筆者の中にも強くあるからです。
一度に20個以上購入する客もいる「あんドーナツ」

というわけで、迷わず『中屋パン』に入店。「町のパン屋さん」定番のラインナップが多彩に並んでいて、目移りしてしまいますが、ここで多くのお客さんが一目散に向かうコーナーがありました。それが「あんドーナツ」(178円)。
値札の脇には「コシアン入り・シナモンシュガー付き」とあります。ふっくらまん丸で、香ばしく揚げられた外観がなんとも食指をそそり、筆者も迷わず購入。

レジに並ぶと、前のお客さんはなんとこの「あんドーナツ」を20個以上も購入しています。やはり、ここ『中屋パン』の名物パンのようです。
生地とこし餡とシナモンシュガーが織りなす絶妙な味

『中屋パン』で「あんドーナツ」を購入した後、数時間かけて東京に戻ってきました。改めてその外観を眺めてみると、プリッと柔らかく膨らんだ生地にまぶされたシナモンシュガーがいかにも美味しそう。また、購入後、数時間経過しているにも関わらず油がにじんでいないのにも驚きました。

さっそくいただきましたが、まず生地の風味の良さとフワフワ感。そして、たっぷり入った程よい甘さのこし餡と、シナモンシュガーの甘さの融合によって、これまでに食べたことがない絶妙の味わいを楽しむことができました。
![唯一無二の味わいです![食楽web]](https://cdn.asagei.com/syokuraku/uploads/2025/05/20250529-nakayapan07.jpg)
なぜだかクセになるのも特徴で、次々に頬張りたくなる印象もあり、前述の「20個購入」のお客さんの思いにも納得しました。
まとめ

言うに及ばず、美味しい「あんドーナツ」を出すパン店は東京にもありますが、なぜだかこれらとも違う『中屋パン』の「あんドーナツ」。この味を忘れられなかった筆者ですが、たまたま今年春に名古屋に行く機会があり、再び『中屋パン』を再訪しました。
来店時、社長の平井成明さんが店頭に立たれていて少し話をする機会に恵まれました。
「あまりの美味しさにまた来ちゃいました」と平井さんに言うと、「確かに東京ではない味かもしれないですね」と言います。
『中屋パン』は今年で創業89年の老舗中の老舗。なんでも、ドーナツの発酵を行う際、通常イースト菌を使うところを『中屋パン』では酒麹を使っているのだそうです。酒麹を使うことで、香りが立ち、時間が経過して生地が硬くなるのを防ぐ効果もあるのだとか。
この独自製法による「あんドーナツ」が地元で名物となり、1日1200個以上が売れる事態に。さらには筆者のような地元外から買いに来るお客さんも少なくないようですが、平井さんはどこか控えめにお話をしてくださいました。
89年もの歴史ある『中屋パン』の「あんドーナツ」はまさに「そこにしかない味」。名古屋来訪時には、必ずまた寄りたいと思っています。
(取材・文◎松田義人(deco))